のこぎりの刃 ー 押すか、引くか

押すか、引くかは切る木材で決まります

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日本ののこぎりが引いて切る道具なのに対して、西洋ののこぎりは押して切る道具。押すか、引くかという使い方の違いでは、かんなも同じですね。西洋のかんなが押して使うのに対して、日本のかんなは引いて使う - 刃の向きが完全に逆です。

使う時の力の入れ方がどうして違うのか - あれこれ調べてみてもこれといった正解、説明には出会えそうもありませんが、加工しようとする木材の硬さや使い方自体に理由がありそうです。日本各地でひのきすぎの山林が多く見られますが、特にこの表のようにごく簡単な硬さ比較をしてみても、加工のしやすさで選ばれてきた木なのだろうということが想像できます。

とても硬い 硬い 少し硬め 普通 柔らかめ
つげ くり オーク ひのき すぎ
かし かえで ホワイトオーク えぞまつ
びゃくだん ぶな パイン からまつ
なら ウォルナット  きり
マホガニー

硬い木材の代表であるびゃくだんの硬さは、のみの刃が欠けてしまうこともあると言われるほどで、仏壇の材料として使われることが多いのはみなさんもご存じだろうと思います。

つげは今でも櫛に使われていますね。毎日、朝に夕に髪をすくのに使うのですから、なまじの硬さでは使い物にならないだろうということが容易に想像できます。使い込んだつげの櫛のつやを、みなさんも見たことがあるでしょう。

一方、柔らかさの代表のひとつであるきりは、ほかの木材とくらべて燃えにくいところから、火事のときにも大切な着物を守りやすいと言われ箪笥として重宝されてきた木材です。

欧米のoak(オーク)は日本のかしならと同じ種類のものですが、ひのきすぎなどと比較すると1つ、2つ硬さのレベルが上です。木の家としてスウェーデン材を使った北欧家屋というものがありますが、多くはこのoak、あるいはそれに近い仲間だと思ってよいでしょう。

日本のような湿潤な気候ではなく、ヨーロッパや北アメリカ、カナダのような、より乾燥した気候で育つ木は簡単に太くなることはできず、結果、木目が細かく硬い木材になるということも理解しやすいと思います。

形や使い方の違い - その特徴やメリット

西洋のこぎりの形と構造
(c) Can Stock Photo

のこぎりに押して切る、引いて切るの違いがある理由・由来ははっきりと分からないものの、欧米ののこぎりが相手にする木材は日本の木材より硬いようだということが分かってみると、西洋のこぎりが握りをブレードに直接ボルト留めしたシンプルな構造で、体重をかけた力の入りやすい押して切る方法が選ばれたのも自然の理と感じます。

西洋のこぎりのブレードが厚く、硬い(しなりにくい)のも、押して切るための特徴だろうと思います。握る側のブレードの幅が広く、先端が狭いのも、押す力(水平方向の力)を木材(下方)にかかりやすくするための形状だということが分かります。

英語にはrip cut あるいはcross cutという(縦びきと横びきを表す)言葉があるくらいですから、西洋ののこぎりにも縦びき、横びきそれぞれの刃があるのではないかと思うのですが、日本ののこぎりのように刃の形状の違いがあるのでしょうか? 少なくとも両刃の西洋のこぎりは見たことがないのですが・・・^^;

両刃のこぎりの形とバランス一方の日本、今ののこぎりはどうしてわざわざこんなに複雑な構造にしたのだろうと思うほど、作りが精巧です。

縦びき、横びきどちらも同じように使えるように、のこ身の中心線に対して左右対称の形で、のこ身 - 先端(「先」と呼ばれます)から首と柄のつなぎ目(「もと」と呼ばれます) - と柄の長さの比率はほぼ1:1。日本ののこぎりのほとんどがほぼ同じような長さのバランスで作られています。

のこ身のもと、縦方向の中心線に重なるようにを作り、握りに合わせた太さに木の柄を付ける。柄はのこ身の垂直方向に向きを合わせ、引くときにのこ身が回らないよう断面は楕円になっている - これぞ、引くための形とバランスです。

欧米型の押して切るのこぎりは製材 - 木を切り倒し、木材として細分化する加工に、一方の日本ののこぎりは細分化された木材をさらに細工する加工に、それぞれ向いているように感じますが、つげびゃくだんを材料にするような場合を思うと、日本にも押して切るのこぎりがあっても良いように思います・・・

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木を切り倒すのはおの(斧)の仕事。倒した木を割って板材のもとにするのはくさび(楔)の仕事。その板材を板材として仕上げるのはかんな(鉋)の仕事。いにしえの木材はそんなふうにして加工されていたと言います。

のこぎりの構造や刃の構造の複雑さを考えてみれば、のみさえ刃こぼれさせてしまうほど硬い木を相手にのこぎりを使うのは最低限にすべきだっのかも知れませんね。

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2件のコメント

  1. ここに農耕民族と狩猟民族の力の入れ方の違いを加味すると良いでしょう。農耕民族は鍬で掘ったり引き抜いたりと『引』く力で労働するのが一般的ですが、狩猟民族は『押』して働く、それは刀とサーベルの違いでもありましょう。私たちの体も綱引きをしやすいように、骨盤が後傾しているのに比して狩猟民族のは前傾気味。それは立った時の姿勢、歩き方に影響し、狩猟民族の方が自然で美しいようです。

    1. Inoueさん
      コメントをありがとうございます。
      人類学的と言うのでしょうか? とても興味深いお話しです。

      確かに農耕器具はトラクターにつないで使うようなものでも引いて使うものが多いですね。

      ブルドーザーを操作して仕事をしている頃、似たような事を考えたことがありました。これ(ブルドーザー)は開拓用で、開墾用ではないなと。鋤も鍬も、鎌でさえ引いて使うもの。日本以外でも農耕の歴史が長い国ののこぎりは、引いて使うのか⁇ 興味があります。
      今度ゆっくり調べてみたいと思います。

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