ただのHow toものを求めるのではなく、自分で行くべき道を探そうとするなら
今、日本はまさに「百年に一度の危機」に瀕しています。長い不況のトンネルからいつ抜け出すことができるのか、まだ誰にもわからいというのが現状です。
という言葉、そして、松下氏は資産を投じて私塾を開き、「人間を育成する」ということを目的に、自らの実業家としての経験を語られたという説明ではじまるこの著書の冒頭。
ストーリーから分かるのは、目指すものは経済的なサバイバルであり、それを成し遂げることが成功である - そのための行動の基盤となるのが、いわば人間力だと語られているように感じながら読み進めるのですが・・・
- 「成功するために知っておいてほしいこと」、そして
- 「リーダーになる人に知っておいてほしいこと」
の2部構成で綴られているこの著書を読んで思ったことは、はたして松下氏は、何を「成功」として語っていたのかということでした。この著書には「成功」という文字が何度も出てきますが、最後まで、これが目指すべき成功なのだというもの(こと)が言葉になっていない、そう感じるのです。
実業家であり、経営者であった松下氏が語るものに、企業としての成功、経営のあるべき姿以外に語ろうとする目標があったはずはない - それはわざわざ求める言葉ではなく、読者の側が心得て読むべきなのだという受け止め方があるだろうということも承知していますが、この著書は、単なる How to もの、安易な回答や指針を求めて読むものではないと思うのです。
もう一度、冒頭の「序文にかえて」に戻ってみると:
当塾で塾主が語った記録は膨大なものになりますが、その話の根底にあるもの、それはやはり「人間を育成する」ということであり、「人間として成長し成功する」ということでした。
つまり、この著書は、松下氏その人や、松下氏がたどり、残してきた実績を成功として、松下氏はどのようにそうした実績にたどり着いたかということを語っているのではないのです。言い換えれば、この著書の読み進めていく中で「成功」という文字に出会ったならば、たとえば、「自分の目指すものを実現しようとするならば」という言葉に置き換えなければ、語られていることの意味に近づくことができないと思うのです。
戦術・戦略も大事。しかしそれ以上に、何が正しいかということを忘れてはならない。そうでなければ大事は決行できないものだ。
と「正しさを貫く」ことの意味を説く一節がありますが、まず自らのありようを知り、必要ならば磨きなおせ・・・そう語っているように思います。
もちろん、自分を見直し、磨きなおすことが欠かせないと語っているのだとしても、その作業に即効性を求めることはできないかも知れないとも感じます。「未曽有の危機に立ち向かう」ためにと説いているように聞こえる著書だけに、そうした時間のかかる作業を説いているのだろうかという疑問もわいてきます。ただ言えることは、
物事を変えるには「きっかけ」がいる。「これをやるべきだ」「これをやりたい」と言い出す人になる。その志が、道を切り開く。
その言葉に、「成功」という言葉の意味が示されていると思うのです。