墨付けのあとは「切る」
Contents
材料が決まり、寸法を決めて墨付けが終わればいよいよのこぎりの出番。調達した木材をそのままのサイズで使う場合は別として、木工はのこぎりで材料を切り出したり、目的のサイズに合わせる作業から始まります。
のこぎりは直線加工の道具 - 木材に合わせ、目的に合わせて
木材を加工するという意味ではのこぎりにもいくつかの種類があり、回し引きと呼ばれるもののように曲線を切るためののこぎりもありますが、まずは基本中の基本、木材をまっすぐ直線に切るのこぎりです。
のこぎりを使うときに必要なのは
- 木材の性質を知っておくことと、
- のこぎりがどんな道具なのかを知っておくこと、でしょう。
木材の性質を理解しておくことは、実は木工の一番の基本。しかも、とてもと奥が深いものです。
ですから別にページを設けて確認してみたいと思いますが、ここでは材料となる木材 には繊維の向き -木目- があり、その向きに合わせて道具を使うのだということを覚えておきましょう。
のこぎりに限らず、それがすべての木工の道具に共通の基本です!
のこぎりを上手に使いこなすには、木の性質をしっかり理解する - その両方がみんながよく知っている「縦びき」「横びき」という言葉に現れています。
のこぎりの刃には 種類 & 向き があるのです
のこぎりの構造 - 縦びき & 横びき
木の繊維の向きを木目といいますが、材料の木目に対して平行、あるいは同じ方向性(上図の赤い線)で切る切り方を縦びき、垂直に、木目を断ち切るように(青い線)切る切り方を横びきと呼びます。
のこぎりには、この2種類の切り方に合わせ て2種類の歯があります。切る材料の木目に合わせて刃を使い分けるのがのこぎりの最初の基本です。
この2種類の刃があるのはどうしてでしょう。それは、木目の方向と切れ方に違いがあるためです。
MEMO:
木目に合わせて歯を使い分ける、それがのこぎりの構造と使い方の基本です。
木材の「縦」、「横」とは?

そもそも木材の「縦」とか「横」とかは何を基準に言っているでしょう?
「縦」は板材を見て、平行に並んで見える木目と同じ方向です。
それは木が立っている姿を思い越してもらうと分かると思います。木の幹の方向(赤い線)の方向が「縦」、幹を地面に水平に切る方向(青い線)が「横」です。
木の繊維が並んでいる方向、木が水分を上げる方向が「縦」、それを断ち切る方向が「横」という言い方もできるでしょう。
枝は幹と枝先を結ぶ線が「縦」、枝そのものを断ち切る方向が(枝に対して)「横」と考えれば、縦びき、横びきの「縦」、「横」と一致するのです。
木材の木目との関係はさらに別のページで覚えましょう。
木目に対して、のこぎりの刃はどうできているか - 両刃ののこぎり
縦びきと横びきは何が違うのでしょうか。
縦びき方向の木目は、木の繊維が削れやすく大きくなりやすいため、縦びきの刃はその繊維をかき出すような形になっています。
一方、横びきの方向では、繰り返 し木の繊維を断ち切らなければならないので、横びき用の歯はひとつひとつが小刀のような形になっています。
つまり、切ろうとする木材は、繊維の方向によっ て切れ方が違い、その切れ方に合わせてのこ刃の形が違うのです。
木の繊維が大きく削れる縦びきをしようとして横びきの刃を使うと、のこ身が 木に食い込んでしまうだけでなく、細かくなりすぎた木の繊維でのこ刃が目詰まり状態になってしまい、刃を思うように動かせなくなってしまいます。のこぎり の刃やのこぎり自体を損傷させてしまうこともあるので木目とのこ刃の対応には注意が必要です。
のこぎりの構造 -両刃 & 片刃
では、のこぎりはどんなものを使えば良いでしょう。
本 来であれば、加工しようとする材料とそのサイズなどを基準に選ぶものだろうと思います。それをあえて、のこぎりを覚えよう、上達したいと考えるようになっ た私たちのこぎり初級者用に言うとすれば、実際に手に持ってみて、大きさ、重さ、バランスがいちばんしっくりくるものを選べばよいでしょう。
のこぎり選びで大切なのはしっくり感。手に持ってみて、
- 重い! と感じるとすればのこぎりを引く・押すという基本的な動きに力みが入り、
- 軽い(軽すぎる)! とすればのこ刃を噛ませよう(切ろう)という力みが入ります。
結果的にスムーズにのこ刃を動かし、のこ刃の重みを活かした滑らかな切り口が得られなくなるのです。
今はホームセンターやそのDIYコーナーで買うことができるのこぎりに、替え刃構造の片刃のものが増えていますね。ゼットソーと呼ばれる製品はそのひとつですが、昔からある両刃ののこぎりと比べるとどちらが自分に合っているか、選択の幅が広がります。
- のこぎり自体の重さ。刃の大きさが同じで、刃わたりの長さが同じならば、両刃ののこぎりの方が重いだろうということ、
そして - 木目に合わせてのこ刃を切り替えて使うときの使い勝手
そして - 値段
だろうと思います。
のこぎり、それも特にゼットソーは、刃を損傷したりせずに普通に使っているのであれば、刃を交換しなければならなくなるほど刃が摩耗するというほどになるにはよほど大量の材料を切ったということになるでしょう。ですから、私たちのようなアベレージな日曜大工レベルの使用頻度だとすれば、耐久性を問題としてゼットソーか軟鉄でできた両刃ののこぎりかという選択はあまりしないように思います。
目立てのできる、軟鉄でできた両刃ののこぎりは、錆や変形などにも気を配った繊細な管理が必要です。目立てができると言っても、その技量と道具がなければできるものではありませんし、特に金敷きなど、目立てのための道具を手に入れることもむずかしくなっています。あさり出しひとつとっても、のこぎりがまっすぐに切れるかどうかが決まる作業でもありますし、決して簡単な作業ではないと思います。
軟鉄でできた両刃ののこぎりの重量感と木材を切る手ごたえは、ゼットソーにはない、独特なものだと感じます。一方のゼットソーは、切れ味がとてもシャープだと感じると思います。
軟鉄製の両刃ののこぎりが時間をかけて使い方を覚えるものだとすると、ゼットソーは、軽く扱いやすく、木材の切り方を覚えやすいと感じます。
ですから、私が私たちのようなレベルのウィークエンドカーペンターにお勧めするのは、ゼットソーです。
ただし個人的には、ゼットソーの衝撃焼き入れによる超硬度の替え刃は、もし交換して古いものを廃棄するにしても、どう処分できるのかを承知したうえで廃棄したいと思います。
のこぎりの特徴&使いやすさ/むずかしさ
のこぎりの重さ
のこぎりの重い軽いにどんな意味があるかと言えば、当然、重いものは力持ち用と言うことになるでしょう。たとえば、幅 5cm, 3cm と言うような材料を相手に、少し小さ目のほぞを加工するような場合には、刃の大きさが同じならば、のこぎり自体は軽い方が作業が楽だと感じるだろうと思い ます。
ゼットソーと比べてみると、従来からある両刃ののこぎりの刃がかなり大きく見えます。ゼットソーの中でも一番標準的と言われている 265 というタイプのものと、ほぼ同じ長さの刃の両刃ののこぎりとで比較してこの違いですから、ゼットソーの手軽さが分かります。
この比較の例で言えば、ゼットソーの方が刃が細かく、のこ刃自体の厚みも薄くできています。つまり、ゼットソーの方がより小型の加工に使いやすいのです。別の見 方をすると、より長い直線を切る場合には、ある程度の大きさと重さを持っている両刃ののこぎりの方が使いやすいとも言えます。
のこぎりの使い勝手
材料の小口にほぞを加工する場合を想像してください。お分かりですか? 縦びきと横びきを使い分けるのがほぞの加工なのです。
そうしたケースでは、両刃ののこぎりは当然ながら刃を持ち替えて使うことになりますが、片刃のゼット ソーでは、横びき用か縦びき用か、刃を付け替えなければならなくなりそうですね。
ところがゼットソーの刃には不思議なことに、縦びき・横びきいずれにも使えるというものがあります。どのくらいのサイズの木材ならどんな刃を選んでおけばよいのか、そのあたりに注意が必要になりそうです。
私たち のようにのこぎりの使い方を覚えようとしている初級レベルでは、のこぎりの重さの違いを細かく感じることはできないかも知れません。ただ、木目に合 わせて刃を使い分けるのが基本、けれど、片刃でも縦びき・横びきの両方に使えるとなると、 両刃、片刃という形はあまり問題にならず、いかに手になじんだ感じで使えるかというあたりがのこぎり選びの基準になっていいような気がします。
のこぎりのタイプと必要性
縦びきを多く必要とするケースはあるレベル以上の応用編のように思います。
今は材料となる木材は、ホームセンターやそのDIYコーナーで購入することが多いように思うのですが、そうした木材は乾燥もしっかり行なわれ、サイズもさまざまなバリエーションで、それ以上の加工が必要ないほどに正確に仕上げられて店頭に並んでいます。そのため、「切る」 というのこぎりの作業のうち 「縦びき」 の必要性がずいぶん減っているように感じます。
より軽量、より小型の加工に適した片刃のゼットソーのようなものが増えてきているのも、
- 縦びき不要のバリエー ション豊かな材料が手に入りやすくなっていること、そして
- 電動の丸のこのようなツールが普及していることも
関係しているかも知れません。
逆に、住居の条件が変わってきて、たとえば長さ180 cm、幅90 cm の合板をねかせて、そこからいくつもの材料を切り出すというような作業は、やりたくてもできない、場所がないということから「縦びき」の需要が減り、のこ ぎりの形が変わってきたのかも知れません。
さらには、のこぎり自体の値段や、刃のメンテナンスの利便性への工夫が片刃ののこぎりに集約されているようにも感じます。
縦びきは、切る距離が長い分、まっすぐ切ることがよりむずかしくなりますし、切ったあとの処理も必要になるでしょう。そうした手順をまるごと楽しめるほどにのこぎりの使い方になれたら、材料と場所を確保して少し大がかりな縦びきを必要とする作品にチャレンジしてみるのもいいと思います。
※ のこりぎを使いこなすためのヒント:
のこぎりの使い方
その作業の基本は直線をまっすぐに切ること。そのためには
- 材料をしっかり固定し、
- のこぎりを垂直を保つように持ち、
- 墨線とのこ刃の位置を確認しながら、
- 刃の長さ全体を使うようにして切る ことが大切です。
のこぎりの第2の基本は準備、そして第3の基本は力加減と方向でしょう。
何より引いて切るという日本ののこぎりの特性を生かして使うのだとうことを覚えておきましょう。
さらにこの時に大切なのは、のこぎり自体に仕事をさせること。力で切るのではなく、まっすぐ繰り返して同じ軌道・直線上を往復させることに集中し、のこぎりの刃が自分の重みと刃の角度で材料を噛み、自然と切り進んでくれるようなイメージを目指して切り方に慣れましょう。
のこ刃は墨線に合わせ、のこ刃を真上から見るように
のこぎりは刃の大きさ、重さとのバランスを考えた長さ、重さの柄がつけられています。柄はそのちょうど中間を持つようにすると使い勝手が一番良いはずです。
のこぎりを使うとき、墨線に沿ってまっすぐのこぎりを引けるように構えようとすれば、腕とのこぎりの柄、のこ刃、墨線、そして目線はほぼ一直線になっていると思います。
切りはじめは軽く・細かく、切り終わりはゆっくり丁寧に
のこぎりの持ち方や切りはじめ、中間、切り終わりと一連の流れに慣れてきたら、木材とのこ刃の角度の関係などまっすぐ切るための基本を確認したり、練習したりとステップを進めてください。
※ のこりぎを使いこなすためのヒント:
のこぎりの手入れ
手入れの基本
のこぎりに限らず、切ったり、削ったり、彫ったりという刃を使った作業が基準の大工道具は、使い終わったあとは
- 水分をよく取り
- 水分を避けるように そして
- 道具に無理な力がかからないように保管すること
が大切です。そのために、乾いた布で拭いて、機械油などを塗ってやって、古新聞で巻いた状態にしておくのが良いと思います。
![]() |
![]() |
使い終わったのこぎりは柄も刃も切りくずにまみれています。 | 乾いた布で切りくずや汚れを丁寧にぬぐって取り除きます。 その時、刃の向きに沿うようにして布を動かすようにすると、のこ刃に布がひっかかったり、手を傷つけたりする危険を小さくできるように思います。 |
![]() |
![]() |
機械油を薄くひいたら、湿気を近づけないよう古新聞紙で包んでやると良いでしょう。 |
Info: 防錆(さび止め)を十分に、刃や道具自体に負担がかからないようにが使い終わった後ののこぎりの手入れと保管の基本です。
そして、DIY志向とは言っても私たちのように道具の使用頻度が低い者にとってハードルが高いのが、道具の切れ味を維持するための手入れ - メンテナンスでしょう。刃の切れ味を感じるほどに道具を使いこなせるようになってくれば喜ばしいことでしょうが、万一、その切れ味が悪くなったと思った り、刃が欠けてしまったりしたら、どうすれば良いでしょうか。
のこぎりのメンテナンス
のこぎりの普段のメンテナンスは何と言っても、使い終わったら乾いた布で切りくずをよく落とし、機械油などを塗り、新聞紙などでくるんで汚れやほこりが付かないようにしておきます。余計な重みがかかったりしてのこ刃が変形しないよう、吊るしたり、専用の格納場所を確保するなどといった保存が望ましいと思います。
切れ味が落ちたり、刃が欠けてしまったのこぎりのメンテナンスは、目立てという刃を復元する作業と、のこ刃ひとつひとつを左右に振り分けるあさり出しという作業とで行いますが、この作業には目立てやすりや金敷、金づちなど、専用の道具が必要になりますし、道具があってものこりぎの種類によっては、のこ刃にやすりが効かないなど、のこぎり自体や 刃の構造、製造方法などについての知識が必要です。それに、目立て自体の技術を訓練して、高めなくてはならないことを考えると、私たち素人が手出しできる 領域を超えた作業のように思います。
またそれほどの作業ですから、プロにお願いしたいと思っても、対応してくれる職人さんにたどり着くまで時間がかかることもあるでしょ う。ただ、大切に使ってきたのこぎりであれば、見積もりを出してもらい、しかるべき料金を出して復元してもらうようにしてみてはと思います。よみがえった 切れ味に感動することまちがいないと思います。
特にゼットソーの場合には、その刃の材質、焼き入れ方法から、目立てができないのだということを覚えておいてください。もちろん他の切る道具と同じように、切れ味が落ちたり刃が欠けたりということはあるでしょう。けれどゼットソーは - 正確に言うと “衝撃焼入れ” された刃ののこぎりは - 刃を丸ごと交換するコンセプトで設計されています。だからこその替え刃方式なのです。
ゼットソー
刃の種類
用途に合わせて刃を変えることができるゼットソー。どの替え刃を選べばよいかというのは、使い分けてみて初めて分かるものかも知れませんが、刃の長さや厚さ、切り幅は刃ごとに違いがあります。
ただ、共通して言えることは、従来型の両刃ののこぎりよりも刃のきめが細かいものがそろっていて、その分、私たちア マチュアにとっては切れ味がシャープに感じられるのではないかと思います。
刃のタイプには様々なものが用意されていますが、私が普段使っているものでまとめてみると刃のタイプの違いが分かっていただけるでしょうか。
7寸目、8寸目と表示された刃があります。たとえば70なり80という一定の数の刃が、どれくらいの長さの中に並んでいるかを示しています。
7寸、8寸とい うのはのこぎりの刃わたり、つまり刃全体の長さを示しています。ですから、7寸目と8寸目を比べた場合、刃わたりは7寸が短く、8寸が長い、刃は7寸が細 かく、8寸が粗いというわけです。
ゼットソーでは、この刃の細かさ・粗さを「ピッチ」と呼んで比較できるように示してくれています。数字が大きくなるほ ど、刃が大きく、粗いことを示しています。
そして、265、300と表示された刃があります。これは9寸目、10寸目にあたる、やはりのこぎりの刃わたりの長さを示しています。つまり、 7寸目 < 8寸目 < 265 < 300 という具合に、刃わたり、刃の細かさ・厚さ、そして重さが、長く、粗く、厚く、重くなります。300の刃わたりは文字通り300mm、7寸目は 225mm。刃のピッチでは、300が2.15であるのに対して、7寸目では1.2、つまり、ほとんど半分といえるほどに刃が細かいのです。
ピッチ | 刃の長さ | 刃の厚さ/切り幅 | 使う目的 | |
7寸目 | ![]() |
![]() |
![]() |
![]() |
8寸目 | ||||
265 | ||||
300 |
のこぎりは刃が大きくなるほどに切り口は粗く、そのかわり早く切れる。逆に、きれいな切り口、細かい加工が必要であれば、より細かい刃で、丁寧に切る。それ がのこぎりの刃のサイズの違いなのです。
片刃の、ゼットソーのようなのこぎりが私たちアマチュアに教えてくれているのは、のこぎりものみと同じように、切 る長さ、木材の厚さによって、刃を使い分けるとよいということのように思います。
刃の交換
ゼットソーはのこ刃の元の部分に切り欠きがあり、柄につけられている金属の固定具に切り欠きを差し込み、ひっかけてから、のこ刃を固定具に挟み込んで固定する構造です。刃の取り外し、取り付けには端材を用意してください。
パッケージには、ホームセンターなどで売られている革製の手袋をするか、古くなったタオルなどを巻いてのこ刃を掴んで行う方法が説明されています。
古くなったフェイスタオルを使った例です。
4つ折りにして厚みを確保することでのこ刃をしっかり覆ってください。ルーズな巻きつけは、のこ刃が手の中であばれることがあるので、ゆるくならないように巻き付けましょう。
![]() |
![]() |
固定部に挟み込まれているのこ刃を外すときは、のこ刃が外れるときに注意が必要です。固定が緩んで柄とのこ刃の角度が深くなりますから、たたく力を徐々に弱めます。
固定部にのこ刃を固定する時には、最初に固定部とのこ刃を軽くかみ合わせてあげることが必要です。下の写真よりも柄を水平気味にして、握っている手と反対の手で柄の端を持ち、その柄の端を落とすような感覚で柄をたたいてやると良いように思います。
![]() |
![]() |
のこ刃を上に向け、刃を外す | のこ刃を下に向けて、刃を固定する |
柄を持って、のこ刃の背を端材に打ちつける方法で外すこともできますが、自分に合った方法を選んでください。
補足版、応用編へとつづく