どれほど優しくなれるだろう - 『おくりびと』

普通じゃないものか、あたりまえのものか

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別れというのは普通じゃないもので、あたりまえのもの - 今はその意味が分かります。

そして、できれば日常の暮らしの中で、その普通じゃなくてあたりまえのものをちゃんと感じていられないだろうかと思っています。みなさんはどうでしょう? 私には主人公の大悟と妻の美香が交わす言葉が象徴的に聞こえます。

「どうして言ってくれなかったの?」
「言うと反対するだろう?」
「あたりまえじゃない。まさかこんな仕事してるなんて・・・・。恥ずかしくないの?」
「どうして恥ずかしい? 死んだ人を触るから?」
「普通の仕事をしてほしいだけよ」
「普通ってなんだよ? 誰でも必ず死ぬだろう? 俺だって死ぬきみだって死ぬ。死、そのものが普通なんだよ」

we know the moment of life starting and ending
(c) Can Stock Photo / photocreo

肉親との別れは一生のあいだにそう何度もあることではない - できればあってほしくない - ことなのですが、その数少ない経験で私たちはその後の人生観、死生観までが変わるほどのものを感じて過ごすのだな、それだけに少しでも優しい思いが胸に残る別れをすることができたら、それに勝る幸せはないのだろうなと、私は感じています。

「死、そのものが普通なんだ」という主人公の言葉は、普段の私たちにはそのまま受け止めるのがむずかしいもののようにも思います。戸惑いや恐れ、不安が途切れた先にあるのが別れなのではないか - そんな、やはり恐れとしか言いようのないものが、どこかにあって、そうした不安な思いを抱いたまま向き合わなければならないのが別れなのだという感覚があるからのように思います。

できれば見えないところに置いておきたい、手の触れないものであってほしいという怖れが強くなってしまえば、納棺師の仕事は「普通ではない仕事」ということになってしまうのでしょう。

記憶の中の別れ、その意味は

私の母は、がんとの闘病の末終末ケアを支援してくれた施設で亡くなりました。
ホスピスを送り出してもらう直前、私たちが席を外した部屋で母は身に着けていた部屋着を換えてもらい、丁寧に化粧もしてもらっていました。その母を運んでくれる葬儀屋の車を待って自宅へ帰ったあと、使い慣れた自宅の布団に包まれて通夜をすごした母は、翌日、納棺師の人にさらにしたくをととのえ棺に納めてもらいました。

見守ってあげてほしいと声をかけてもらい10人を超える子どもと孫のみんなが、畳2枚、3枚を隔てたほどのところで、母が化粧をさらに直してもらったあとを確認したり、胸元にドライアイスを抱かせてもらうときまで、最後の支度ひとつひとつを見守り、できるところはいっしょに作業をさせてもらいました。

その少しの時間が、母との別れの支度をした私たちのための時間になったのです。母の臨終を告げられてから20時間ほどあとのことでした。

母は生前、父を送り出すとき、同じように通夜を過ごす前の晩 - 亡くなった病院から父を自宅に運んだ夜、どうしても父に着せて送り出したい衣装があるといって、同じ10人を超える子どもと孫みんなの力を借りて父に着せたものがありました。

信仰を持っていた父、それも生前、その衣装が最も映えるときに作ったもので、祭典のときに欠かさず袖を通していたものです。

死後硬直で母の思いを受け付けるように見えないほど固くなっていた父の組み合わせ、むくんだ手の指を一本一本、父に語りかけるようにしながらほどき、袖を通してやり、またその手を組みなおしてやった母は、その夜、「まだ、あたたかさを感じる」と言いながら父と過ごしました。

別れは避けようがないもので、いつか自分にもやってくる - そのことを手で触れることは「普通ではない」ことだし、普通であってほしくことかも知れません。

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いつかそう遠くない将来、どうしても別れなければならない、そのことを覚悟の上で飼うんだからねとペットのうさぎと暮らした時を思い出します。

い かに覚悟をしていたつもりでも、いかに、いつ何があってもいいようにと自分を律して暮らしてきたつもりでも、立ち直ることができないのではないかというほ どのショック受け、心に傷を負ってしまう - 命を意識するほど、大切にしようとした暮らしであればあるほど、別れは辛くて悲しいものです。

でもだからこそ、恐れることなく、命を愛おしいと思える心で暮らせたらと思います。そんなふうに、別れの記憶をよみがえらせてくれるあたたかな物語 - それがこの 『おくりびと』 だと感じるのです。

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