自分のキャリアや適性、どれくらい自覚してるでしょ

良い仕事をしたい - そんな志はなくしてないつもりだけれど

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思っているより長かった今の仕事とのつき合い

私は、自動車、機械、オートメーション、あるいはオーディオや家電、さらにはソフトウェアといった分野を産業翻訳に取り組んできました。一番長く、多く関わってきたのは自動車のための整備要領書や取扱説明書 - つまり、メーカーが製品の使い方をユーザーに伝えるためのお手伝いをしてきたということです。

産業翻訳の世界での私のキャリアは、日本の製品の使い方、メンテナンスの仕方をヨーロッパやアジア、アメリカの人たちに伝えるために、日本語→英語→ヨーロッパ言語という翻訳からはじまりました。そして今、仕事の中心はヨーロッパの製品を日本に伝える、つまり英語→日本語に伝える方向、言語の方向が180°逆になっています。

“日本の製品をヨーロッパへ” の方向でおよそ15年、今の “ヨーロッパの製品を日本へ” の方向になってからもあと何年かで15年ですから、結構長くやっていることになりますね。
そして最近、その長いかな? と思う経験を振り返っても、目指す仕上がりは変わらないものだなと強く感じています

自分の力量はどのくらい??

translation is my job
(c) Can Stock Photo / Cleomiu

私は自分の仕事を称して情報サービスに関わっていると説明していますが、最近になって、言葉という製品(サービスであれば顧客に届けるのは製品だと思っているのですが)はとても扱いがむずかしいものだとあらためて確認しなおしています。

扱いがむずかしい、つまり翻訳はどんな製品かというと私が感じているのは2点

  • 家電製品や自動車のように色や形が一目では分からないもの、そして
  • 常に、オーダーメイド

だということです。

製品マニュアルに求められた翻訳の品質

製品であればその良し悪しが問題になるでしょう。
英語→ヨーロッパ言語の方向で日本の製品をヨーロッパに伝える仕事で取り組んでいたのは整備要領書と取扱説明書。つまり、製品をメンテナンスするための整備士のための手順書とユーザーのための製品の使い方の説明書でした。

そうしたいわゆるマニュアルと呼ばれる資料の翻訳の良し悪しを測るために使われてきたのが「原文への忠実度」と「統一性」です。

PL法(製造物責任法)と呼ばれる法律をみなさんもご存知でしょう。

製造物責任法(せいぞうぶつせきにんほう、平成6年7月1日法律第85号)は、製造物の欠陥により損害が生じた場合の製造業者等の損害賠償責任について定めた法規のことをいう・・・

出典: Wikipedia “製造物責任法”

製品に欠陥があっては困りますが、製品を買い、使う人の利益や安全を守るために翻訳するマニュアルは原文に忠実に、原文が伝えようとする内容を正確に伝えることを求められます。
これは言うまでもないことですね。

そして、その忠実さ・正確さを確実にするために用語の統一性、表記の統一性を高めることが求められます。

用語の選定と統一: 仮に 原文を all wheel drive という原文があるとして、どう翻訳するか。1つの用語に1つの用語を対応させ、どこで使われていても all wheel drive  に対応する訳語を統一することで、誤解のない分かりやすさを確保することがよい翻訳の条件だとされてきました。

  1. オールホイールドライブ
  2. 全輪駆動
  3. 4輪駆動

1. はあまり一般的な呼称ではないような気がしますし、2. は耳で聞いたとき 「前輪駆動」 と同音になるため、使うことを避けようとすることもあります。3. は原文に対応しない 4 という言葉で all を表しています。
一般的な自家用車では十分に使える用語だと思います。

そして、用語をどのような様式で書くかという問題。原文をカタカナ化して訳語とするパターンの例を挙げると、表記というものの意味が分かっていただけると思います。

用語の表記: 単語ごとにセパレートして表記するのが原則だとすると、その境目を中黒とか中点と呼ばれる記号文字 ・ でつなぐ形と、スペースを開けて表記するタイプ、もうひとつはセパレートせずに連続がきにするタイプの3通りが考えられるでしょう。

  • エアバッグ
  • エアーバッグ
  • エア・バッグ
  • エアー・バッグ
  • エア  バッグ
  • エアー  バッグ

(原文にも air bag, airbag あるいは air-bagといくつかのパターンが考えられます)

あくまで原則論ですが、単語ひとつに訳語ひとつを対応させ、その訳語を文法通りに並べて訳文を構成する - そうすることで訳語の統一性を保ち、原文を正確に別の言語に置き換える、その方法論でマニュアル用の翻訳は良さを保ち、向上させてきました。

インターネットという需要が教えてくれた自分の仕事の本質

英語やヨーロッパの言葉、特にドイツ語やフランス語などが分かる方には想像してもらえるのではないかと思いますが、言語学的に親戚としてまとめられる言語同士は、この1:1の翻訳が可能なのですね。

ドイツ語 vs フランス語、英語 vs オランダ語 などはそのままでは通じ合うことのない言語はこの1:1が可能です(これが不思議なところです)。ところが、ヨーロッパ言語 vs 日本語 ではこの方法論が成り立ちません。

たとえば、Mr. , Mrs. を日本語に翻訳してくれと言われても、1:1にはなりません。人の名前に付ける敬称として翻訳しようとして「さん」とするか「様」とするかという違いがあったり、使われる場所によってはMr., Mrs. の位置には「さん」も「様」も置くわけにはいかないのです。

そして何より、 “ヨーロッパの製品を日本へ” 紹介しようと今私が取り組んでいる翻訳は、1:1が成り立たないタイプの文章が相手です。
つまり、製品マニュアルではなく、会社や製品をウェブで紹介する記事です。

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会社やブランド名、製品名、つまり固有名詞と呼ばれるものは1:1でなければ困りますが、たとえば、製品ユーザーとしての人物紹介や愛車紹介を別々のライターが書いた記事を日本語にするとなると、判で押したような翻訳は不可能です。
もしできたとしても人間味を伝えることができない良くない翻訳にしかなりません。

日本語→ヨーロッパ語だった翻訳の方向がヨーロッパ語→日本語になっているというのが今の経済事情を反映しているとしたら、翻訳をする対象がマニュアル→ウェブ記事になっているという現象は時代を反映していると言えるのかも知れません。

もちろん、製品マニュアルの翻訳がなくなっているわけではないのですが、かつて、「如何に型通りに翻訳するか」とやっきになっていた私の仕事に、型どおりではない良い日本語、読める日本語をという言い方で別の翻訳を求められるようになっている - 言い換えると、目標となる仕上がりを変えて別の日本語が書けるかと問われてるような今の仕事に、残り時間でどれほど答えが出せるだろうと考えたりしているのです。

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