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こんな展開あり?!

三囲稲荷と書いて “みめぐりいなり” 。ところが、主人公が拝んだのは、とんもなくご利益があると教わった三囲のお稲荷さんではなく、三巡稲荷と書く “みめぐりいなり” !?^^;

しかも、祈りを聞き届けて? 出てきてくれたのはご利益をもたらしてくれるありがたい神様ではなくて、決して出てきてもらいたくはない貧乏神!! しかもしかも、「三巡」というのは貧乏神のあとをありがたくないリレーでつなぐよ!? という意味でした。

物語の主人公は武士であることの誇りとともに生きているといっていいような彦四郎。婿入り先から出戻るという、身の置き所がないどころか針の筵に座らされているような境遇の彦四郎に、三巡稲荷の神様が手伝って? 不運に継ぐ不運が見舞うというお話し。

ただし、不運に継ぐ不運 - あるいは、そこから起こるあれこれを彦四郎は武士の誇りをもって真正面から受けとめていくのです。
その結末… どうなると思います?

 

悩ましい神様 と ゆるぎない武士の魂の物語

その主人公の魂を試すかのように次々と襲う三巡神社がもたらす災い。
はたしてこれが自分だったら、自分を見舞う災いをこれほど冷静・客観的に受け止めることはできないだろうなと思うのです。

婿入りした先で自分に長男が生まれた途端、離縁させられた彦四郎が、貧乏神の力を逆に利用して舅(しゅうと)に一矢報いたあと、婿入り先に残してきた長男と再会する場面。
舅に言い含められた息子は彦四郎を怨みの目で見るようになっているのですが…

「おまえ様は、わたくしの父などではございませぬ」
少しも怯まずに、市太郎は彦四郎の睨みつけた。
「これ、市太郎。父上に向こうて何ということを」
八重は愕いて叱りつけたが、彦四郎は少しも怒りを感じなかった。むしろ言われたままを実直に信ずるこの気性を頼もしいと思った。

武士は堕落している。本来その精神のうちにあるまじき功利と打算が、多くの武士の心を支配している。義なりと、信ずれば脇目もふらず、敵味方の衆寡もいとわず、命を投げ出す者こそが武士である。
「よいよい。無理強いはするな」
と、彦四郎は八重を宥めた。
武士が大切にしなければねらないものは、血縁ではなかった。たとえ血脈がなくとも、一所懸命と守る砦は、すなわち家である。家族と家との取捨択一を迫られたとき、迷わず家を択ぶのが武士たるものの道理であった。

出典:浅田次郎 氏著・「憑神 (新潮文庫)

親子の情よりも、武士としての目線でだけ息子の成長を測る… こんなことが本当にできるものでしょうか? できたのでしょうか?

武士と呼ばれる人たちが、本当にこうした感覚の持ち主だったのだとしたら、同じ日本人でも - いや、同じとはとても言えないでしょう。あくまで、同じ日本に生まれた者としてという意味で - 何か怖れのようなものを感じませんか。

 

彦四郎が御徒士の家にうまれた身を上に思いを巡らせる場面も、私たちも一度はこうして、自分や家族、家というものを考えたことがあったのじゃなかったかなと思い出させてくれます。

もしや別所の家は、語源様からこの御紋を褒美として賜ったのではなく、呪縛されたのではあるまいか、と思った。しかも、その呪縛を解いてくれてもよさそうな吉宗公も、そうはして下さらなかった。

(中略)

不遜きわまる考えではあるけれど、わが祖が忠義の臣であるならば、いや、命の恩人であるならば、こうした御紋を賜うのではなくて身分を引き上げてくれてもよかりそうなものである。だが権現様は、そうはして下さらなかった。永遠にこの板敷に座り続けよ、というわけだ。

(中略)

つまり、いかに古い家来であろうが、足軽は足軽というわけだ。幕府の御家人に足軽という身分はないけれど、最下級の家来であることにちがいはない。だから三河安祥以来、数代にわたって戦場を先駆け、ついには権現様の身代わりとなって首を差し出したところで、その報いはせいぜい御影鎧番なのであろう。
父祖は名誉に甘んじた。だが、かつては戦陣に命をかけ、また平らかな世に至っては御役目に命をかけてきた御徒士が、旧来の身分を二百五十年間も問われ続けるのは、いかさま理不尽であると彦四郎は思った。

今の私たちには「ストイック」という言葉がありますが、自分の境遇に理不尽ささえ感じているのに、武士である・御徒士であることを投げ出そう・やめようとはしません。

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三巡稲荷が使わしてくれる3人の神様。
その災いの力は1人、また1人と抜き差しならない強力さを増していくのですが、彦四郎は武士であるという誇りを力に、武士というしがらみに挑んでいくのです。

そんなばかな!!^^; という話しの展開がいつの間にか やっぱりそうきたか! という期待に変わる。

それほど感情移入できるのはやっぱり浅田さんが綴る物語だからこそですね。